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加入していた企業年金基金の受給権が子にあるか争った裁判

【裁判】
事件番号:令和2(受)753
事件名:退職金等請求事件
裁判年月日:令和3年3月25日
法廷名: 最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却


【訴訟経緯】
Aが加入していた企業年金基金の受給権が子にあるか争った裁判。

■詳細
・(平成26年):Aは企業の従業員として働きながら、中小企業退職金共済法、確定給付企業年金法、及び出版厚生年金基金に加入。
・(平成2年~平成4年):AとCは婚姻して子供(被上告人)が生まれるが、事実上の離婚状態にあり、形骸化していた。平成4年には事実上離婚状態が発生しており、Cは他の女性のもとで生活を始めていた。
・(平成21年):平成21年、AはCから離婚協議を求める書面を受け取ったが、被上告人の就職を懸念して手続きを放置、平成26年には罹患した病状が悪化し、離婚届が書けない状態であった。
・(平成26年):Aが死亡。死後、中小企業退職金、確定給付企業年金、及び出版厚生年金から発生する退職金や遺族給付金の支給権が問題となる。本件退職金等の最先順位の受給権者はいずれも「配偶者」と定められている。
・(平成28年):Aが危急時遺言の方式によって、Cを廃除し、被上告人に全ての遺産を相続させる旨の遺言を行っていた。家庭裁判所はAとCの離婚状態を考慮し、Cを推定相続人の廃除と判断。
・(現在):被上告人はAが加入していた企業年金基金の受給権を主張し、本件に至る。本件退職金等の最先順位の受給権者は「配偶者」になり、子は第2優先権となっている。本裁判に至る。


【判決】
判決


【判決趣旨】
民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらないものというべきである。
※判決文一部抜粋

■要約
最高裁は原審判断を支持し、AとCの離婚状態を考慮して、法的な遺族給付金や退職金の優先権はCには適用されないと結論。AとCの離婚状態が法的な権利に影響を与え、原審と最高裁はこの状況を考慮して法的な権利の優先順位を決定したという判断です。

■中小企業退職金共済法14条1項1号とは
退職金共済契約に基づく退職金を受けるべき優先順位の受給権者を定めています。具体的には、次のような人が優先して退職金を受け取る権利を持つことになります。第一優先順位は配偶者です。配偶者とは、法的な婚姻関係があるかどうかではなく、事実上の夫婦関係があるかどうかを考慮します。届出をしていなくても、事実上婚姻関係と同様の状況にある相手も含まれます。


【理由】
確定給付企業年金法や厚生年金基金令は、これらの支給を受ける遺族の範囲と順位は規約で定めるものとしつつ、規約で定めることのできる遺族として、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む配偶者や、直系血族及び兄弟姉妹のほか、主として給付対象者の収入によって生計を維持していたその他の親族又は給付対象者と生計を同じくしていたその他の親族を掲げており、これを受けて、JPP基金規約及び出版基金規約は、上記に掲げられた者を遺族とする旨を定めている。
※判決文一部抜粋

■要約
給付対象者の収入に依拠していた遺族の生活保障を主な目的として受給権者を定めたものと解される。事実上離婚関係が続いていたため、上記に該当しない。


【最後に】
本件では、民法上婚姻関係にある配偶者(本件ではその子)に受給権がないと判断された事例です。民法上では離婚していない限り婚姻状態となります。しかし、本判例では、実態と中小企業退職金共済法14条1項1号の解釈まで踏み切り、事実上婚姻関係がないため、受給権がないと判断されました。相続における法定権利と共済における受給権では決定的に異なる判断がなされた判決と言えるでしょう。