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被相続人の未払い国民健康保険料が時効で消滅となるか争った裁判

【裁判】
事件番号:令和1(行ヒ)252
事件名:国民健康保険税処分取消請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日:令和2年6月26日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:その他


【訴訟経緯】
被相続人の未払い国民健康保険料が時効で消滅となるか争った裁判。

■詳細
・平成20年9月21日、上告人は、埼玉県北川辺町の国民健康保険被保険者の資格を取得した
・同22年3月12日、同町にその旨の届出をした
・被上告人は、同月23日、近隣の市町と合併した
・平成22年4月1日頃、加須市長職務執行者は、上告人の父であるAに対し、上告人を被保険者とする国民健康保険につき、世帯主として国民健康保険税を課す
・Aに課された国民健康保険料は、平成20年度分の税額を25万1500円、同21年度分の税額を27万8700円であった
・これにより課された国民健康保険税及びその延滞金に係る債権を「本件租税債権」と呼称
・平成22年8月4日、上告人は被上告人を相手に、本件各決定の取消し等を求める訴訟を提起した
・同24年5月31日、上記取消しに係る訴えは、異議申立てを前置していないため不適法であるなどとしてこれを却下する判決が確定
・平成23年1月26日、被上告人はAに対し、本件各決定に基づく国民健康保険税について督促状を通知
・平成23年11月18日、Aは他界
・平成24年1月24日、上告人は被上告人に対し、本件各決定により課された国民健康保険税のうち、平成20年度分の5万9700円及び同21年度分の4万1300円を納付
・平成24年3月20日、Aの遺産につき,その債務の一切を上告人が承継する旨の分割の協議が成立
・平成24年10月25日、加須市長は、上告人に対し、本件租税債権に係るAの滞納金につき、相続人として同年11月16日までに納付するよう求める旨の通知を行う
・平成29年1月10日、加須市長は、本件につき延滞金含めた滞納金に対し、上告人の預金払戻請求権を差し押さえ(本件差押処分)、銀行から62万4700円を取り立てた
・平成29年1月13日、配当計算書に従って、その全額を本件租税債権に配当する旨の処分をした
・本件訴訟に発展
・上告人は、滞納金の内、延滞金3万9100円については納付義務を負うことを認める一方、それ以外の本税については時効により消滅していると主張
・被上告人は、平成24年10月25日に送付した納付通知が「消滅時効の中断」に該当すると主張
※判決文を抜粋、要約してあります。


■ポイント
・租税の徴収は、原則として納付期限から5年間行使しないことによって、事項により消滅する(「国税通則法72条1項」「地方税法18条1項」)
・平成24年1月24日に納付した行為が債務承認に当たるかどうか
・平成24年10月25日に送付した納付通知が「消滅時効の中断」に該当するかどうか
・「消滅時効の中断」とは、時効が消滅する前に一定の行為を行うことによって期間のカウントをリセットする行為
・「消滅時効の中断」が無効かどうかで、本件差し押さえは最終通知より5年以上経過しているため、差し押さえが無効になる


【判決】
判決


【判決趣旨】
被相続人に対して既に納付又は納入の告知がされた地方団体の徴収金につき、納期限等を定めてその納付等を求める旨の相続人に対する通知は、これに係る地方税の徴収権について、地方税法18条の2第1項1号に基づく消滅時効の中断の効力を有しないというべきである。
※判決文一部抜粋


【理由】
地方団体の徴収金について、被相続人に対し納付又は納入の告知がされているときには、その効力も相続人に引き継がれるというべきであるから,徴税吏員は、相続人に対して直ちにこれに続く徴収手続を進めることができ、改めて相続人に同告知をする必要はないものと解される。
被上告人は、この間における時効の中断事由として,平成24年10月25日に本件承継通知がされたことを主張するが、Aに対して既に納付の告知及び督促がされた本件租税債権につき、相続人である上告人に対してされた本件承継通知は、同項1号に基づく時効中断の効力を有するものではない。
※判決文一部抜粋


【最後に】
本件では、平成24年10月25日送付の通知書が「消滅時効の中断」の効力を持つものではないと判断しています。その結果、最終通知より5年以上経過しているため、差し押さえは無効との結論に至っています。理由としては、Aに対して平成23年1月26日に送付した督促状が本件租税債権の通知であって、平成24年10月25日、相続人に通知された通知書は、既に被相続人に納付の通知がなされているため、「消滅時効の中断」の効力を有しないとの趣旨です。本解説が皆様の参考になれば幸いです。