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「所得税基本通達59-6」改正のきっかけとなった裁判

【裁判】
事件番号:平成30(行ヒ)422
事件名:所得税更正処分取消等請求事件
裁判年月日:令和2年3月24日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻


【訴訟経緯】
被相続人が亡くなった際に行う、確定申告時の譲渡所得の株価評価で争った裁判。

■詳細
・平成19年8月、A株式会社の代表取締役であったBは、有限会社CにAの株式を譲渡する
・Aは評価通達における大会社に該当する
・譲渡数は72万5000株、1株あたり75円、計5437万5000円にて譲渡する
・譲渡額は、株式評価方法の「配当還元方式」と同額であった
・Cは平成16年2月に金銭の貸付、株式投資等を目的として設立された有限会社である
・Bは平成19年12月26日に他界。本件株式譲渡に関わるBの譲渡所得の確定申告を行う
・確定申告の際、株式の譲渡金額を配当還元方式と同額の計5437万5000円にて申告を行った
・平成22年4月21日付けで、所轄税務署長は、本件株式譲渡価額は「類似業種比準方式」により算定した価格が正しいと判断し、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課 決定処分を行う
・この際、所轄税務署長の判定した株価は、1株当たり2990円、合計21億6775万円であった ・平成22年6月、被上告人らは上記各更正処分等を不服として、東京国税局長に異議申立てをした
・東京国税局長は、上記各更正処分における本件株式の価額算定に当たり類似業種の選定に誤りがあるとし、上記の各更正処分及び各賦課決定処分 の一部を取り消す旨の決定をした
・東京国税局長の決定は、1株当たり2505円、合計18億1612万5000円であった
・これに対し、被上告人ら(Bの相続人)は、Cは評価通達188の(3)の少数株主に当たるとして、配当還元方式により算定した額を主張
・上告人は、Bは少数株主に当たらないとして、原則的な評価方法である類似業種比準方式により算定した額を主張する
・原審では、配当還元価額によって評価した額との判決がなさなれる

■本裁判のポイント
・被相続人が亡くなった際に行う確定申告時の譲渡所得(株価評価方法)で訴訟まで発展
・株価の評価時のポイントである同族会社に当たるかどうかも重要なポイントになっている
・相続時の株価評価方法と確定申告時の株価評価方法は異なっている
・株価を算定する際、大会社か中小企業かで同じ売上、利益を出していても株価は異なる
・上場企業かそうでないかにもよって、株価は異なる
・Aは評価上、大会社であり、Cに株式譲渡後は同族会社に当たらないとの判断
・「所得税基本通達59-6」の解釈で争っている


■「所得税基本通達59-6」とは
・取引相場のない株式(非上場会社の株式)を個人から法人に贈与(譲渡)した場合の価格をどの様に算定するかを取り決めている通達


【判決】
破棄差戻


【判決趣旨】
原審は、本件株式の譲受人であるCが評価通達188の(3)の少数株主に該当することを理由として、本件株式につき配当還元方式により算定した額が本件株式譲渡の時における価額であるとしたものであり、この原審の判断には、所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法がある。
※判決文一部抜粋
※原審では相続時の評価方法の1つである「配当還元方式」による算定を容認したが、本判決にて「配当還元方式」による算定を容認した原審の判断の誤りと判断。
※趣旨としては、前述の「所得税基本通達59-6」"個人から法人に贈与(譲渡)した場合"における、"贈与(譲渡)した場合"とは、贈与時点なのか、贈与後なのか、その解釈で原審とは異なる判断をしています。

■ポイント
本訴訟は、"株式等を贈与した場合の「その時における価額」"の解釈で割れていました。
・被上告人らの主張→贈与した=株式を贈与(譲渡)した後の状況で判断
・本判決→贈与した=贈与時点の当該株式を譲渡した株主の状況で判断


【理由】
譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。「所得税基本通達59-6」は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めているところ、この定めは、上記のとおり、譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる。 取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めている。
※判決文一部抜粋
本通達は、評価方法の差異による不当な低額譲渡(低額算定)を避けるのが趣旨のため、少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきと判断しています。


【最後に】
本判決に伴い、「所得税基本通達59-6」の改正が行われました。判決の際、裁判官から以下補足が述べられていますので、記載しておきます。

■裁判官 宇賀克也氏の補足意見
課税に関する予見可能性の点についての原審の判示及び被上告人らの主張には首肯できる面があり、より理解しやすい仕組みへの改善がされることが望ましいと思われる。
※判決文一部抜粋

■裁判官 宮崎裕子氏の補足意見
私は、法廷意見に賛成であるとともに、宇賀裁判官の補足意見に同調するものであるが、さらに以下の点を敷衍しておきたい。所得税法適用のための通達の作成に当たり、相続税法適用のための通達を借用し、しかもその借用を具体的にどのように行うかを必ずしも個別に明記しないという「所得税基本通達59-6」で採られている通達作成手法には、通達の内容を分かりにくいものにしているという点において問題があるといわざるを得ない。本件は、そのような通達作成手法の問題点が顕在化した事案であったということができる。
※判決文一部抜粋