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交通事故死亡者への損害賠償金を事業者へ求償した裁判

【裁判】
事件番号:平成30(受)1429
事件名: 債務確認請求本訴、求償金請求反訴事件
裁判年月日: 令和2年2月28日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻


【訴訟経緯】
運送会社である被上告人の使用者(上告人)が業務執行中、Aを転倒、同日に死亡させる交通事故を起こした。その後、Aの長男(相続人)が訴訟を起こし、使用者(上告人)に対して1383万円及び遅延損害金の請求を認める判決を言い渡す。本件は使用者(上告人)が運送会社(被上告人)に対して、求償を求めた事例である。

■詳細
・被上告人は、資本金300億円以上の運送業を営んでいる株式会社である
・被上告人は、事業に使用する車両全てに自動車保険契約等などを加入してなかった
・上告人は、被上告人(運送会社)に雇用されたトラック運転手である
・上告人は、信号機のない交差点をトラックで右折する際、Aの運転する自転車にトラックを接触させてしまう
・上記事故は業務中の出来事である
・Aはトラックと接触後、横転し同日中に他界する
・被上告人(運送会社)はAに対し、治療費として47万円を支払う
・Aの相続人は子である長男と二男のみである
・二男は被上告人(運送会社)に対し、損害賠償を求める訴訟を起こし、被上告人(運送会社)との間で和解が成立する
・この時の和解金は1300万円である
・長男は上告人に対し、損害賠償を求める訴訟を起こし、1383万円及び遅延損害金の請求を認める判決を言い渡す
・上告人は被上告人(運送会社)に対し、求償を求める訴え(求償権)を起こす
・原審では、求償権を有しないとして請求を棄却する


【判決】
破棄差戻。


【判決趣旨】
民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである。
このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。
※判決文一部抜粋


■解説
この判決を理解するには、求償権と民法715条1項を理解する必要があります。
<求償権(民法459条1項)>
・保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては、その消滅した額)の求償権を有する。
※本件においては、使用者が被使用者の委託を受けて保証した場合、主たる債務者(被使用人)に代わって弁済した場合(自己の財産から債務の弁済を行った場合)は使用者は主たる債務者(被使用人)に対して、弁済額のために支出した額を求償することができる
※求償とは、他人のために弁済した場合、その他人に対して弁済した額を求めること、あるいはその権利を言います。

<民法715条1項>
・事業を営むものが、その事業のために他人(使用人)を使用する場合、事業を営むものがその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する権利を有していること


【理由】
被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるものと解すべきである。
※判決文一部抜粋


【最後に】
本件の審議について、以下裁判官からの補足意見があります。どのように本判決に至ったか知る手がかりにもなりますので要約の上、記載しておきます。
・通常の業務について発生した損害については被用者の負担をゼロにするとの考えも有り得る
・何故なら、被用者が全ての損害を被ると被用者の不利益となる場合があるからである
・被上告人が保険に加入せず、賠償金を支払う場合、自己資金から充てる自家保険政策を採ったために、上告人が企業が損害賠償責任保険に加入している通常の場合に得られるような保険制度を通じた訴訟支援等の恩恵を受けられなかった
・上記政策自体は被用者の業務遂行上の利益の観点から遂行したと考えられる
・一方、使用者の負担を減少させる理由となる余地はなく、むしろ被用者側の負担の額を小さくする方向に働く要素であると考えられる
このような判断から本判決に至ったと記載されています。
また、本判例については、差戻後の負担金額について、考えが述べてありますので、興味がある人は一読されてみては如何でしょうか。