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被相続人の債務超過分が遺産分割算定価格に含まれるか争った裁判

【裁判】
事件番号: 平成30(受)1551
事件名:遺留分減殺請求事件
裁判年月日:令和元年12月24日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻


【訴訟経緯】
被相続人であるAが遺言書により、相続財産の全てを長男に相続させる旨を記載したところ、Aの長女が遺留分侵害を求めて提訴。本件は合資会社Bの無限責任社員であったAが、Bの退社に伴い、金員支払債務を負うどうか争った事例である。

■詳細
・Aが他界。Aには相続人である長女(非上告人)と長男(上告人)がいた
・Aは遺言書にて、相続財産の全てを長男(上告人)に相続させる旨記載
・長女(非上告人)が長男(上告人)に対し、遺留分減殺請求権を行使
・長女(非上告人)が遺留分減殺請求として、長男(上告人)に請求した財産は、Aの不動産持分とAの死後に長男(上告人)が受領した賃料に係る不当利益分、そして、Aの預貯金及び現金である
・本件は、遺留分算定に伴い、合資会社Bの無限責任社員であったAが、Bの退社に伴い、金員支払債務を負うかどうか(遺留分算定額にBへの金員支払義務を含めるのか)を争った事案である


【判決】
破棄差戻。


【判決趣旨】
当該社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超えるときには、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り、当該社員は、当該会社に対してその超過額を支払わなければならないと解するのが相当である。
※判決文一部抜粋


■解説
この判決を理解するには、会社法611条を理解する必要があります。
<会社法611条>
・合資会社の無限責任社員が合資会社を退社した際には、合資会社の財産状況によって、出資額について精算が行われます。(会社法611条2項)
・その際、該当無限責任社員が負担すべき損失額が出資額を下回る場合、該当無限責任社員はその持分の払戻しを受けることができます。(会社法611条1項)
この判決では、該当無限責任社員が退社時、出資額について精算を受けるなら、逆説的に債務超過分も負担するのが適切だ、と判決しています。


【理由】
無限責任社員であるAが本件会社を退社した当時、本件会社は債務超過の状態にあったというのであるから、退社時における計算がされた結果、Aが負担すべき損失の額がAの出資の価額を超える場合には、上記特段の事情のない限り、Aは、本件会社に対してその超過額の支払債務を負うことになる。
※判決文一部抜粋


【最後に】
相続債務については「事件番号:平成30(受)1583」「事件名:遺産分割後の価格支払請求事件」にて、遺産分割財産に含めない旨判決されています。しかし本件では、根拠となる法令「会社法611条」の解釈にて、債務超過分の精算が必要と判断されています。これは、相続とは別の会社法により、会社法の遵守(法令遵守)の観点からこのように判断されたと推察されます。いずれにせよ、差し戻された判決がどの様に判断されるのか、恐らく価格面の判断になると思いますが、差し戻された判例を見ていく必要があるでしょう。