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相続債務が遺産分割算定価格に含まれるか争った裁判

【裁判】
事件番号:平成30(受)1583
事件名:遺産分割後の価格支払請求事件
裁判年月日:令和元年8月27日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却


【訴訟経緯】
原審「平成29年(ネ)4859」にて、被相続人Aの子である判決が確定されたXが、民法910条に基づき、既に遺産分割協議がなされた後の自己の相続財産相当分の支払い価格について訴えを起こした裁判。

■詳細
・被相続人Aの妻であるBとAとBの子であるC(上告人)が、Aの遺産分割協議を成立させた
・その後、被上告人XがAの子であることを確定する判決が下される(平成29年(ネ)4859)
・XはC(上告人)に対し、民法910条に基づく価格の支払いを求める訴えを起こした
・本件はXの相続財産の取得分を巡り、Aの相続債務をXの相続財産算定価格に含めるか争った事案である
※判決文より経緯を抜粋


【判決】
上告を棄却。


【判決趣旨】
上記協議に際して相続債務の負担に関する合意がされ、相続債務の一部がBによって弁済されている本件においては、民法910条に基づき被上告人に対して支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、Aの遺産のうち積極財産の価額から消極財産の価額を控除したものとすべきであるのに、これを上記積極財産の価額とした原審の判断には同条の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。
※判決文一部抜粋


【解説】
相続債務の一部が被相続人Aの妻であるBによって一部弁済されている以上、民法910条に則り、被上告人に対して支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、Aの遺産のうち積極財産の価額から消極財産の価額を控除したものである。


【理由】
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。
※判決文一部抜粋


■ポイント
この裁判を理解するには民法910条を知っておく必要があります。

■第910条
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
※本件においては、消極的財産(いわゆる負債)が910条で規定する価格に組み込まれるかが論点になっています。


【最後に】
本判例において、裁判官が次の発言を残しているのも注目すべきポイントでしょう。
「遺産の分割は,遺産のうち積極財産のみを対象とするものであって、消極財産である相続債務は,認知された者を含む各共同相続人に当然に承継され,遺産の分割の対象とならないものである。」
つまり、消極的財産(いわゆる負債)は遺産分割の対象にならないという点です。本記事が皆様の参考になれば幸いです。