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相続した土地の固定資産税評価額取り消しの訴え

【裁判】
事件番号:平成30(行ヒ)262
事件名:固定資産評価審査決定取消請求事件
裁判年月日:平成31年4月9日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻


【訴訟経緯】
本件は、三重県志摩市所在の2筆の土地に係る固定資産税の納税義務者である上告人が、上記の2筆の土地につき、志摩市長により決定された平成27年度の価格を不服として志摩市固定資産評価審査委員会に対し、審査の申出をしたところ、これを棄却する旨の決定を受けたため、被上告人を相手に、その取消しを求める事案である。

■詳細
・株式会社ササヤマは、志摩市内の山林等を開発した土地上にショッピングセンターを開設することにした
・平成8年5月24日、株式会社ササヤマは、三重県知事に対し、都市計画法に基づく開発行為の許可申請をした
・本件商業施設に係る開発行為は、「河川等の改修、調整池の設置又は排水ポンプの設置のいずれか又は複数の措置を講ずること」が義務付けられていたため、株式会社ササヤマは、敷地の東側に位置する本件2筆の土地を当時の所有者から借り受け、本件各土地に洪水調整のための調整池を設けることとした
・平成8年11月5日、三重県知事は、「開発行為に伴って設けた調整池については、河川整備等排水調整の必要性が無くなるまで、調整機能を保持すること」を条件として、上記申請を許可した
・本件2筆の土地は、本件商業施設の開業以降、調整池の用に供されており、本件土地の1筆は、その面積の80%以上に常時水がたまっている
・また、本件土地の2筆目は、少なくともその面積の大半は調整池としての機能を有する平地であるが、平時は本件商業施設の従業員の駐車場として使用されている
・平成18年4月16日、上告人は、前記所有者から本件各土地を相続して、その貸主の地位を承継
・平成27年1月1日、志摩市長は、本件各登録価格を決定するに際し、本件各土地の地目をいずれも宅地と認定し、土地課税台帳に登録した
・平成27年6月29日、上告人は、志摩市固定資産評価審査委員会に対し、本件各登録価格につき審査の申出をしたが、同委員会は、同年10月22日付けで、同申出を棄却する旨の本件各決定をした
※判決文より経緯を抜粋


【判決】
原判決を破棄し、差し戻し。


【判決趣旨】
本件土地1の面積の80%以上に常時水がたまっていることなど、本件各土地の現況等について十分に考慮することなく、本件各土地は宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地であるとして、算出された本件各登録価格が評価基準によって決定される本件各土地の価格を上回るものではないとした原審の判断には、固定資産の評価に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
※判決文一部抜粋


【理由】
①土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、その登録価格の決定は違法となるものというべきである
②本件地目は、本件土地の現況及び利用目的に重点を置き、土地全体としての状況を観察して認定することとしている
③開発行為に伴う洪水調整の方法として設けられた調整池の機能は、一般的には、開発の対象となる地区への降水を一時的に貯留して下流域の洪水を防止することにあると考えられる。そうすると、上記条件に従って調整池の用に供されていることから直ちに、本件各土地が本件商業施設の敷地を維持し、又はその効用を果たすために必要な土地であると評価することはできないというべきである
※判決文一部抜粋

要約すると以下の通りになります。
①土地の登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合は、適正な時価を上回るかどうかに関わらず、その登録価格の決定は違法となると言える
※最高裁平成24年 (行ヒ)第79号同25年7月12日第二小法廷判決より
②本件土地の現況及び利用目的に重点を置いて、土地個々の利用状況を加味し、価格を決定していない
③調整池の用に供されていることから直ちに、本件土地が本件商業施設の敷地を維持し、又はその効用を果たすために必要な土地(宅地)であると評価することはできない


■ポイント
原審では、宅地として判断されています。参考までに原審の判決文から、判決理由を以下に抜粋しておきます。
「本件各土地は、宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地と認められるから、本件各土地の地目をいずれも宅地と認定した上で決定された本件各登録価格は、評価基準によって決定される価格を上回るものではなく適法である。」

■要約
本件土地は、地目が宅地と認定される商業施設の敷地を維持するために必要な土地であり、評価基準を上回る価格ではないため、適法である。


【最後に】
原審では、「土地全体を利用目的に照らし合わせ、宅地として判断したこと」及び、「評価基準を上回るものではないため、適法」と判断されました。
しかし、本審では「土地個々の状況を踏まえて判断していないため、原審に差し戻し」と判断され覆っています。
最高裁では、原審の判決が覆ることが多く、また、訴えの原因となる法令の解釈まで踏み込んで判断するケースが多々あります。
このような点も踏まえながら、裁判結果を見るとまた違った見え方で判例を見ることができます。