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債権者が債務者の相続財産譲渡を求めた裁判

【裁判】
事件番号:平成30(許)1
事件名:譲渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
裁判年月日:平成31年1月23日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻


【訴訟経緯】
本件は、債権者が差し押さえた共有持分である振替株式の譲渡命令を申し立てた事案。
債務者が被相続人から振替株式を相続した場合における、振替株式の差押さえの可否と執行裁判所における譲渡命令の可否を争った裁判。
※原審では、申し立て(差押)を却下している。


【判決】
原審の決定を破棄、本件を大阪高等裁判所に差し戻し。


【判決趣旨】
被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等が共同相続された場合において、その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は、当該振替株式等について債務者名義の口座に記録等がされていないとの一事をもって違法であるということはできないと解するのが相当である。
※判決文一部抜粋


【理由】
被相続人が有していた振替株式等は相続開始とともに当然に相続人に承継され、口座管理機関が振替株式等の振替を行うための口座を開設した者としての地位も上記と同様に相続人に承継されると解される(民法896条本文)。そうすると、被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等は、相続人の口座に記録等がされているものとみることができる。このことは、共同相続の場合であっても異ならない。
※判決文一部抜粋

■ポイント
原審では、以下のように譲渡命令を発することができないと判断しています。
「共同相続人全員の名義を口座に記録等をすることはできるものの、共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等をすることはできないから、当該共有持分についての譲渡命令が確定しても当該譲渡命令による譲渡の効力を生じさせることができない。」
これは、相続人個人名義での財産ではないから、相続人らに債務の譲渡命令が確定しても、引渡しの効力は生じない、という理屈かと思います。
「共同財産」ということは、本件で言えば、相続人個々がその共有財産について、具体的にどの程度の割合を保有しているのか明記されていない(所有権割合が明確でない)から引渡しは不可能ですよね、という解釈をすれば分かりやすいかと思います。


【最後に】
本裁判を理解する上で重要なのが、原審での判断基準となった社債等振替法の66条かと思います。

■社債等振替法66条
「この章の規定による振替口座簿の記載又は記録により定まるものとする。」
※法文一部抜粋

つまり、本件振替口座の名義は債務者の名義ではなく、被相続人の名義であり、債務者の名義ではないから、差押さえができないという論付けです。
これに対し、本判決では裁判官の1人が以下のように補足を付けています。

■裁判官の補足
相続人と債務者、債権者の3者共同で共有口座を開設し、裁判所から差押さえの譲渡命令が発動されたあと、3者全員で振替口座から3者間の共同口座へ振替申請を行う方法が考えられるが、この方法が実際には広く普及していないことと、共同相続人らの協力が得難い点から現実的と言えない。
本来であれば、口座管理機関が共有口座の開設に応じる運用を行い、差押債権者以外の者の協力がなくても債務者共有持分についての譲渡命令に基づいて、差押債権者の権利を実現することを簡易に実現するような法令上の仕組みを設けることが望ましいが、現状そのような仕組みがない以上、本件譲渡命令の申し立てが不適切であるとすべきものではない。
※補足を一部要約