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相続債権者又は受遺者が不利益になる場合の相続財産分離に関する裁判

【裁判】
事件番号:平成29(許)14
事件名:相続財産の分離に関する処分及び相続財産管理人選任審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
裁判年月日:平成29年11月28日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却


【訴訟経緯】
相続債権者又は受遺者が不利益になる場合の相続財産分離に関するに対する訴えを求めた裁判。

■具体的背景
・原審「平成29(ラ)302」の判決データが公開されておらず、経緯が不明


【判決】
判決、本件抗告を棄却。


【判決趣旨】
家庭裁判所は、相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり又はそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者等がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあると認められる場合に、民法941条1項の規定に基づき、財産分離を命ずることができるものと解するのが相当である。
※判決文一部抜粋


【理由】
民法941条1項の規定する財産分離の制度は、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者又は受遺者(以下「相続債権者等」という。)がその債権の回収について不利益を被ることを防止するために、相続財産と相続人の固有財産とを分離して、相続債権者等が、相続財産について相続人の債権者に先立って弁済を受けることができるようにしたものである。
※判決文一部抜粋

■要約
→無し


【ポイント】
原審「平成29(ラ)302」の判決データが公開されておらず、経緯が不明な点がありますが、本判決を理解するには、相続の「限定承認」と「単純承認」「相続放棄」を理解する必要があります。

■「限定承認」と「単純承認」
相続財産がプラスの財産(預貯金や株式、不動産等のプラスの財産)より、マイナスの財産(亡くなった方の債務等)が多い場合、通常の相続(単純承認)を行うと、プラスの財産より、マイナスの財産を多く引き継ぐことになり、相続人が自ら所有していた財産から債務を支払わなければなりません。しかし、「限定承認」を行うと、プラスの相続財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぐことが出来ます。
例えば、相続財産が「プラスの財産とマイナス財産」を加味した結果、Aという相続人が-1000万の相続財産を相続する場合において、Aが自己で2000万円の資産を元々所有していたとします。「単純相続」すると、Aは自己の財産から1000万円を支払わなければなりません。
こうなると、債権者は債務を回収できますが、Aは自己の財産に不利益を被る事になります。
一方、相続財産を-1000万相続するとして、Aの資産がプラスの資産と債務を加味した結果-1000万円だった場合、債権者は債務を回収できず、不利益を被る事になります。
このような場合において、相続財産と相続人の財産は分離し、相続債権者等(相続債権者又は受遺者)が、相続財産について相続人の債権者に先立って弁済を受けることができるようにしたものが、民法941条1項だと判決文で述べていることが推察できます。


【最後に】
相続には「相続放棄」という方法(プラス、マイナス関わらず相続財産を放棄すること)がありますが、相続放棄は原則論として、「相続を知った日から3ヶ月以内」に「家庭裁判所に相続放棄の申述」をしなければいけないこと(民法915条及び921条)と、放棄が受理されたことを証明する「相続放棄申述受理通知書」及び「相続放棄申述受理証明書」が発行されても、相続放棄が無効として債権者から訴えを起こされるケースがあるので注意が必要です。
また、相続人全員が相続放棄をしないと、第1順位→第3順位までの法定相続人(配偶者・子・親・兄弟)に債務を含めた相続財産を引き継がれますので、この点も覚えておくと良いでしょう。
このような観点から、債務が多い相続財産は弁護士に相談の上、進めるのが適切です。