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相続人が信用金庫に対し、定期預金の法定相続分の支払いを求めた事案

【裁判】
事件番号:平成28年(受)第579
事件名:預金返還等請求事件
裁判年月日:平成29年4月6日
法廷名:第一小法廷判決
裁判種別:判決
結果:その他


【訴訟経緯】
相続人が信用金庫に対し単独で定期預金の解約を求めた裁判(法定相続分を請求)

■具体的背景
・平成22年12月に相続人らの父であるCが死亡。
・Cは死亡当時、上告人である信用金庫に対し、普通預金債権,定期預金債権及び定期積金債権を有していた。
・Cの子であるAとBが上告人である信用金庫に対し、上記定期預金の法定相続分相当額の支払いを求めた事案。
※信用金庫に対し、定期預金を解約し法定相続分の支払いを求めた事案


【判決】
被上告人による本件請求を棄却。
※原審(平成27(ネ)984)では、上告人が負けており、本件の被上告人の請求を容認している


【判決趣旨】
共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
※判決文一部抜粋


【理由】
定期預金については、預入れ1口ごとに1個の預金契約が成立し、預金者は解約をしない限り払戻しをすることができないのであり、契約上その分割払戻しが制限されているものといえる。そして、定期預金の利率が普通預金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、一定期間内には払戻しをしないという条件と共に定期預金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期預金契約の要素というべきである。他方、仮に定期預金債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して払戻しを求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないのであるから、そのように解する意義は乏しい(前掲最高裁平成28年12月19日大法廷決定参照)。この理は、積金者が解約をしない限り給付金の支払を受けることができない定期積金についても異ならないと解される。
※判決文一部抜粋


【ポイント】
定期預金は一定期間内預け入れることにより、他の預金より高い利回りを得ることと、前提として途中解約を認めていない点、また途中解約することで、その利益(利回り)を失うことから、相続人全員の合意がない限り、解約を認めるべきではないという点。


【参考法令】
民法427条、民法898条、民法899条

■民法427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

■民法898条
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

■民法899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
※民法第899条の2は2018年に改正


【最後に】
本判決文にある通り、定期預金に関する相続人単独及び複数人(相続人全員ではない)での解約はいずれも最高裁での裁判で、その主張を認められていません。また、民法899条の2は2018年に改正されており、その相続財産が共同相続財産、かつ、法定相続分を超えて相続する場合、法定相続分を越えた部分に対しては対抗要件(不動産であれば、不動産の登記や引渡しなど)を備えていないと第三者に対抗できないことになりました。

【参考】
■第899条の2
1.相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2.前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。