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養子目的で実子でない子を実子として届出た出生届は有効か

【裁判】
事件番号:平成3(オ)339
事件名:親子関係不存在確認
裁判年月日:平成9年3月11日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却


【訴訟経緯】
家業の経営権を巡り、養子が相続人である「実子でない子」の親子不存在確認を請求した裁判。

■具体的背景
・Dと上告人A1は昭和18年3月15日に婚姻の届出を提出した。
・昭和17年11月24日、実子ではない上告人A2をD、A1夫婦間に出生した子として出生の届出をした。
・D夫婦は、長年にわたって上告人A2を養育し、A2は昭和四六年に婚姻した後も、D夫婦と同居し、D死亡後も上告人A1と同居しているなど、D夫婦と上告人A2との間には実親子と同様の生活の実体があり、D夫婦、上告人A2ともその解消を望んでいない。
・昭和35年2月5日、被上告人(昭和11年2月2日生)をD夫婦の養子として縁組を行う。
・本件訴訟は、昭和63年8月22日にDが他界し、上告人らと被上告人の間で家業である製靴業の経営権を巡る争いが生じ、遺産分割協議も進展せず、遺産分割の前提として上告人A2の相続上の立場を明確にする必要があることから発生した訴えである。


【判決】
上告人による本件上告を棄却、判決。


【判決趣旨】
養子縁組は法定の届出によって効力を生ずるものであるから、養子とする意図で他人の子を嫡出子として出生届をした場合に、たとい実の親子と同様の生活の実体があったとしても、右出生届をもって養子縁組届とみなし有効に養子縁組が成立したものとすることができないことは、当裁判所の判例とするところである。
※判決文一部抜粋


【理由】
身分関係存否確認訴訟は、身分法秩序の根幹を成す基本的親族関係の存否につき関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り、ひいてはこれにより身分関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能をも有するものであるところ、虚偽の嫡出子出生届出により戸籍上存在する表見的親子関係の不存在確認を求める本件訴訟の有する右のような性質等に加えて、本件訴訟でD夫婦と上告人A2との間に親子関係が存在しないことを確認する旨の判決が確定した後、あらためて上告人らの間で養子縁組の届出をすることにより嫡出母子関係を創設するなどの方策を講ずることも可能であることにも鑑みれば、前記のような本件事実関係の下においては、論旨が主張するように、D夫婦と上告人A2との間に長年にわたり実親子と同様の生活の実体があり、当事者がその共同生活の解消を望んでいなかったことや、被上告人が、D夫婦と上告人A2との間の親子関係の不存在を熟知しておりながら、Dの死亡前にはその確認を求める訴訟を提起しなかったことなどを考慮しても、被上告人の本訴請求が権利の濫用に当たり許されないものということはできないというべきである。
※判決文抜粋


【ポイント】
かかる事案において、窮極的には、親子関係不存在の確認請求自体が権利濫用として排斥される場合があり得るものといわなければならない。
※判決文「裁判官補足」一部抜粋


【最後に】
本判決文にある通り「親子不存在確認請求」は相手方にとって不利益となるケースも多く、権利の濫用に当たらないかどうかが慎重に審議されます。基本、「親子不存在確認請求」は権利の濫用に当たる場合は認められず、殆どの事例が「権利の濫用」として棄却されています。本件の場合は、母であるA1が存命のため養子関係が結び直せることと相続の遺産分割を進めるためにA2とA1の親子関係を明確にすることは正当性があるため、請求を認めています。いずれにせよ、親子不存在確認請求を行う際は弁護士に相談の上、慎重に対応していく必要があるでしょう。