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口頭弁論終結前に全面的価格弁償を申し出た場合の判決

【裁判】
事件番号:平成5(オ)342
事件名: 持分全部移転登記抹消登記手続
裁判年月日:平成9年7月17日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:その他


【訴訟経緯】
遺留分の減殺請求として持分の所有権移転を求められた受遺者が、事実審口頭弁論終結前に裁判所が求めた価格により、所有権の移転ではなく全面的価格賠償を意思表示した場合、その価格賠償による方法は認められるか?を判決した裁判。

■具体的背景
・平成元年4月21日、Dは全財産を被上告人に遺贈する旨遺言したあと他界した。
・上告人らはDの子であり、その相続分は1/10である。
・被上告人は、Dの遺言に基づき、相続財産である不動産の所有権移転登記手続きを行った。
・平成元年7月、上告人らは被上告人に対し、遺留分減殺請求を行使することを意思表示した。
・本裁判の結果、上告人らはいずれも持分1/40を認められた。尚、持分1/40の価格は241万4750円である。
・本裁判の原審口頭弁論終結時、被上告人が持分の所有権移転ではなく、価格による賠償を求めた。


【判決】
被上告人の請求を容認。判決。


【判決趣旨】
・被上告人は、上告人A1に対し、被上告人が同上告人に対して241万4750円を支払わなかったときは、原判決添付物件目録記載の土地の持分各1/40について、平成元年7月31日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
・被上告人は、上告人A2に対し、被上告人が同上告人に対して241万4750円を支払わなかったときは、原判決添付物件目録記載の土地の持分各1/40について、平成元年7月31日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
・上告人らの予備的請求のうちその余の部分を棄却する。
・訴訟の総費用はこれを二分し、その一を上告人らの負担とし、その余を被上告人の負担とする。
※判決文抜粋


【理由】
減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的物の返還を求める訴訟の事実審口頭弁論終結前において、受遺者が、裁判所が定めた価額により民法1041条の規定に基づく価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の目的物返還請求を認容すべきである(最高裁平成6年(オ)第1746号同9年2月24日第三小法廷判決・民集51巻2号登載予定参照)。
※判決文抜粋


【ポイント】
※民法1041条
・受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。


【最後に】
本裁判でも述べられている通り、遺留分減殺請求(遺留分の行使)を行うとき、特段の事情がない限りはその受け取る財産(正確に言えば価格相当物)について、請求者は選択できません。請求時は、不動産の遺留分を侵害していたとしても、法律上保証されているのは「その相当額」なのであって、遺留分相当額の不動産の持分が欲しかったとしても、相手に義務付けられているのは「あくまで、その相当額の移転」だけなのです。この点注意しましょう。参考までに同内容の裁判もご覧下さい。