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不動産の遺産分割方法として、競売による分割方法を求めた裁判

【裁判】
事件番号:平成7(オ)1684
事件名: 共有物分割
裁判年月日:平成10年2月27日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻


【訴訟経緯】
不動産の遺産分割方法として、競売による分割方法を求めた裁判。

■具体的背景
・本件「土地・建物」はDの所有であったところ、Dは昭和59年3月27日に他界した。
・Dの相続人は、Dとその夫Eの子である上告人らと、被上告人B1とFの6名である。
・Dの夫Eは既に他界しており、相続人Fは本件審議中に他界した。
・昭和61年7月2日、本件不動産につき、法定相続分に応じた持分各1/6による遺産分割協議が成立。
・本件不動産は、記簿上の面積393・95㎡の土地とその地上の二階建木造住宅であり、現物分割には適してはいない。
・第1審中に本件不動産を鑑定評価し、平成4年1月15日時点で20億3400万円の価格評価である。
・本件不動産には、亡Eの死後亡Fが代表取締役となっていた株式会社Gを債務者とする3000万円の根抵当権の他、被上告人B1が代表取締役を務める株式会社Hを債務者とする七つの根抵当権(合計4億4400万円)等が設定されている。
・本件不動産には、現在上告人A一家が居住している。
・本件裁判は、不動産の分割方法として、競売による分割を求めた亡F及び被上告人B1と、全面的価格賠償(本件不動産の持分を買取)を求めた上告人らの判決である。


【判決】
本件不動産がいかなる割合によっても現物分割に適さないとして、被上告人の主張である競売による分割をすべきと判決した原審を破棄差戻。


【判決趣旨】
本件不動産は、亡Dの相続人間の協議により法定相続分の割合に応じた共有とする遺産分割がされたものであって、その形状等から現物分割は不可能である上、上告人Aが今後も本件不動産に居住することを希望しており、上告人らにおいて、本件不動産を競売に付することなく、上告人Aが単独であるいは他の上告人らとともに亡Fの持分につき対価を支払ってこれを取得する方法による分割を提案していることなどにかんがみると、本件不動産についての被上告人らの持分を上告人A単独ないし上告人らの取得とすることが相当でないとはいえないし、上告人らの支払能力のいかんによっては、被上告人らにその持分の対価を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害することにはならないものと考えられる。
※判決文抜粋


【理由】
そうすると、本件について、全面的価格賠償の方法により共有物を分割することの許される特段の事情の存否について審理判断することなく、直ちに競売による分割をすべきものとした原審の判断には、民法258条の解釈適用の誤り、ひいては審理不尽の違法があるというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
※判決文抜粋


【ポイント】
■最高裁昭和59年(オ)第805号同62年4月22日大法廷判決
共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足を調整することができる

■最高裁平成3年(オ)第1380号同8年10月31日第一小法廷判決
最高裁平成7年(オ)第2461号同9年4月25日第二小法廷判決
当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の対価を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである
※いずれも判決文「論旨」より抜粋


【最後に】
本裁判の原審(競売による分割を認めた)判決時には、最高裁による共有物分割を明示的に肯定した判例が出る前に審議されたものであり、本件で全面的価格賠償が判決された経緯には、この判例が出たことによる理由が大きいと、判例補足文でも明言されています。また、全面的価格賠償を判決する際の1つの基準となる「全面的価格賠償者がその支払い能力があるか」についても、次の様にコメントされています。「現物取得者が相当額の銀行預金を有していることが証明されても、他に債務を負っているか否か、その額等が明らかでなければ、必ずしもその預金によって対価が支払われるとは断定できない。逆に、格別の資産を有していることが明らかでなくても、何らかの人的関係によって必要額を調達できる場合もある。」よって、裁判においては、その部分を総合的に厳しく認定された上で、全面的価格賠償が妥当かどうか判断されると言えるでしょう。