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連帯保証を逃れるために行った遺産分割の取り消しを求めた裁判

【裁判】
事件番号:平成10(オ)1077
事件名:貸金及び詐害行為取消請求事件
裁判年月日:平成11年6月11日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却


【訴訟経緯】
連帯保証人として、相続財産である不動産を取得し、その債務履行を求められた相続人が、遺産分割において何も相続しなかった場合、詐害行為取消権行使の対象となり得るかを求めた裁判。

■具体的背景
・Dは昭和54年2月24日に他界し、その相続人はDの配偶者であるEと子供2人(上告人A1と上告人A2)である。
・Dの相続財産は借地権を有する土地と、その土地上にある建物(本件建物)である。
・被上告人は、平成5年10月29日、F及びGを連帯債務者、Eを連帯保証人として、F、Gらに対して300万円を貸した。
・現状において、Dの相続財産である建物の所有名義人はDのままである。
・平成7年10月11日、F及びGの支払いが滞り、期限の利益が失われたため、被上告人はEに対し、D名義のままの建物を相続を原因として所有権移転登記するよう求めた。
・平成8年1月5日頃、E及び上告人ら(A1及びA2)は、Eはその持分を取得しないものとし、上告人らが持分1/2ずつの割合で所有権を取得する旨の遺産分割協議を成立させ、同日、所有権移転登記を行った。
・平成8年3月21日、Eは被上告人の従業員に対し、右連帯保証債務を分割して長期間にわたって履行することを述べていたにもかかわらず、自己破産の申立てを行った。
・本件は被上告人が上告人(A及びB)に対し、本件遺産分割協議は詐害行為取消権行使の対象とし、無効となるよう求めた(遺産分割を無効にし、Eが法定相続分を取得し、その法定相続分を差し押さえできるように、本件遺産分割協議を詐害行為取消権行使として求めた)裁判である。


【判決】
上告人の主張を破棄判決。


【判決趣旨】
本件は詐害行為取消権行使の対象となり得る。


【理由】
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。そうすると、前記の事実関係の下で、被上告人は本件遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
※判決文抜粋


【ポイント】
「共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、必ず、詐害行為取消権行使の対象となり得るものではない。」
法律上、遺産分割協議は、必ず、詐害行為取消権行使の対象となり得えますが、確実にそうなるかどうかはケースバイケースです。本件は明らかに支払いを避けるために遺産分割協議を行ったことが状況証拠(供述)から判断されたため、このようになったと推測できましたが、他の裁判事例をみると相続人らが勝った事例もあり、注意が必要です。あくまで「支払いを逃れるよう悪意をもっていたか」この点が重要になってきます。


【最後に】
相続裁判においては、いきなり差し押さえまで発展し、裁判に発展するケースは散見されますが、こういったケースは殆ど差し押さえを無効とされています。その共通次項として、遺産分割が完了していない状態で、法定相続分或いは遺留分相当額のみを差し押さえたケースです。遺留分及び法定相続分はあくまで侵害された時に認められた権利であり、遺産分割が完了していない状態では効力を持ちません。また、遺産分割の結果、相続人全員の合意の上で、遺留分や法定相続分以下の持分で纏まることもあるため、遺産分割が未完了の状態(争いが発生していない状態)で、いきなり差し押さえることは合理性を欠くと最高裁は判断しています。こちらも覚えておくと良いでしょう。いづれにせよ、裁判はケースバイケースとなるため、相続に精通した弁護士に相談するのが確実です。