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譲渡した財産を遺留分侵害で取り戻せるか求めた裁判

【裁判】
事件番号:平成10(オ)1499
事件名: 土地所有権移転登記手続請求及び独立当事者参加並びに土地共有持分存在確認等請求事件
裁判年月日:平成11年12月16日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:その他


【訴訟経緯】
譲渡及び破棄した相続財産を遺留分侵害で取り戻せるか求めた裁判。

■具体的背景
・Dは複数の土地を所有しており、平成5年1月22日に他界した。
・相続人は、Dの子である「E、B3、F、C、G、H」と、B3の子でありDの養子であるA1、Dの長男のI(死亡)の代襲相続であるB1、B2の計9名である。
・Dは昭和57年10月15日、公正証書遺言にて「B3に全財産を相続させる」旨の遺言を作成した。
・Dは昭和58年2月15日、前項の遺言内容を取り消し「E、F、C、G、Hに土地X1を各1/5ずつ相続させる。土地X2,X5をB3及びA1に各1/2ずつ相続させる。その他Dの所有する財産は相続人全員に平等に相続させる。遺言執行者としてB4を指定する。」旨の遺言を作成した。
・平成5年1月23日、遺産相続の話し合いの結果、EらはB3に対して、相続分の放棄又は相続分の譲渡を口頭で伝えた。
・平成5年2月5日、B3は旧遺言書の内容に則り、本件土地を自己名義に相続を原因とする所有権移転登記を行った。
・平成7年4月6日、B3は土地X2,X5の各1/2の持分について、A1に対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権一部移転登記を行った。
・平成5年9月29日、B1及びB2は遺言執行者B4及び他の相続人らに対し、遺留分減殺の意思表示をし、その意思表示は、同年9月30日から同年10月8日までの間にそれぞれに届いた。
・本件はその遺留分減殺請求を争う事案である。
・B3の主張は次の通り「特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がされた場合には遺言執行の余地はない。よって、原告の原告適格はない。」「B1、B2は民法1040条1項本文により、遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することができない」「B1、B2の遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用に当たり、一審被告B3の寄与分を考慮すべきである」


【判決】
原審の判決を一部棄却、判決。


【判決趣旨】
B1、B2の請求を容認した原審の判決を一部否認。

■原審判決の是認項目
・亡IないしB1,B2が被相続人の相続に関して相続を放棄し、又は遺留分を主張しないとの約束をしていた事実を認めるに足りる証拠はなく、その他、全証拠によるも、B1,B2の遺留分減殺請求権の行使が権利の濫用に当たると認めることはできない。

・寄与分は、共同相続人間の協議により定められ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであって、遺留分減殺請求に係る訴訟において抗弁として主張することは許されない。

■原審判決の否認項目
Eらは、被相続人の遺産相続についての話合いの結果、相続分の放棄をし、又は共同相続人である一審被告B3に相続分を譲渡したというのであって、これが民法一〇四〇条一項にいう「減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したとき」に当たらないことは明らかである。

※以上判決文抜粋


【理由】
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)がされた場合において、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき相手(甲)が相続の目的を他人に譲り渡したときは、民法1040条1項が類推適用され、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとどまり(同項本文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することはできないものと解するのが相当である。また、遺留分減殺請求に基づき共有持分権の確認を求める訴訟に関しては、遺言執行者である一審原告も当事者適格(被告適格)を有するものと解するのが相当である。
※判決文抜粋


【ポイント】
※民法1040条1項
減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。


【最後に】
本判決は内容が複雑化していますが、要点としては、遺言書の内容で遺留分侵害が見受けられたため、その相当額を侵害者に求めた裁判です。最終的に「土地X2とX5の遺留分相当額」はB1とB2に返還するように判決を下しています。土地X1の遺留分相当額は、本人たちが放棄及びB3に譲渡したため、返還不可となっています。