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重婚が発覚した妻に対し、占有していた不動産とその賃貸料を求めた裁判

【裁判】
事件番号:平成7(オ)1203
事件名: 所有権移転登記手続請求事件
裁判年月日:平成12年1月27日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:その他


【訴訟経緯】
重婚が発覚した妻に対し、占有していた不動産とその賃貸料を他の相続人らが求めた裁判。

■具体的背景
・韓国籍を有するDは、同国籍を有する妻Eとの間に、被上告人である長男B2、同じく被上告人である長女B3、及び被上告人である次女B4をもうけた。
・これらDとEとの間の子はいすれも韓国籍である。
・DはFとも男女関係があり、同人との間に、非嫡出子として被上告人B1及び同B5をもうけている。
・これらDとFとの間の子はいずれも日本国籍を有している。
・Dは昭和36年にEと離婚し、同年9月、韓国籍を有するGと婚姻した。
・Dは昭和38年2月27日に日本に帰化し、日本籍を編製されたが、その際戸籍にGとの婚姻関係の事実が記載されなかった。
・Dは昭和38年5月2日に上告人と婚姻した。
・上告人は婚姻後、D及び、DとFとの間の子である被上告人B1、B5と同居していた。
・Dは昭和45年5月16日に他界。
※上告人は、Dの死亡後、単独で本件土地建物を占有管理。
・昭和46年1月23日、上告人及び被上告人、その他親族が集まり、Dの相続財産の処理について話合いが行われたが、何も合意が成立しなかった。
・その数ヶ月以内に、上告人は遺産分割を任せていた弁護士から、自分とDは重婚であったことを知らされる。
・昭和35年にDと婚姻したGは、昭和52年9月4日に他界。
・被上告人B1は、平成2年、上告人に対し、Dと上告人の婚姻は重婚であるとの理由で婚姻取消しの訴えを提起し、平成4年3月3日に婚姻を取り消す旨の判決が確定。
・上告人は、本件建物(店舗兼共同住宅)を計14名に賃貸し、賃料として1ヶ月41万4000円を収受している。
・上告人は、本訴において、本件土地建物(又はその持分)について、20年間占有したことを理由とする取得時効及び被上告人B1の相続回復請求権の消滅時効を援用した。
・本件は第1事件である「被上告人B1が上告人に対し、建物の持分権に基づき、その明渡し及び賃料相当額の金員の支払を求める事件」と第2事件である「上告人が被上告人らに対し、本件不動産について時効取得を原因とする持分全部移転登記手続を求める事件」が合併した裁判である。


【判決】
上告人の占有を認めなかった原審の判決を一部棄却、判決。


【判決趣旨】
・上告人の占有を棄却した原審の判決を棄却。
・被上告人B1はGとの間に親子関係は成立しない。(韓国法と日本国法により)
・本件建物の賃料相当額の金員支払請求につき、被上告人B1がGの相続人であることを前提に計算した額の支払を命じた部分は、破棄。

■上告人の不動産占有
上告人は本件土地建物の各三分の一の持分を時効取得したというべきであり、被上告人B1の第一事件請求のうち本件建物明渡請求は棄却すべきである。その内容は本件土地については被上告人らの各法定相続分の各1/3に相当する持分、本件建物については各登記された持分の各1/3に相当する持分につき、昭和45年5月16日時効取得を原因とする持分一部移転登記手続を命じる限度で認容すべきである。
※判決文抜粋

■不動産賃貸料
同被上告人の原審口頭弁論終結日までの賃料相当額の金員支払請求部分については、同被上告人が相続した本件建物の持分である一二分の一から上告人が時効取得したその三分の一を控除し、一八分の一の持分に相当する限度で認容すべきである。すなわち、被上告人B1の上告人に対する本件建物の賃料相当額の金員支払請求は、一箇月当たり41万4000円に1/18を乗じた2万3000円の限度で認容すべきである。
※判決文抜粋


【理由】
■不動産占有
上告人は、Dの相続人として、Dが死亡した日である昭和45年5月16日に本件土地建物の占有を開始し、その後20年間その占有を継続しているところ、自己がDの唯一の配偶者で1/3の法定相続分を有するものとして占有を開始したと見るべきであるから、被上告人らが他に上告人の占有が所有の意思のないものであることを基礎付ける事情を何ら主張していない本件においては、本件土地建物の各1/3の持分を時効により取得したものというべきである。そうすると、上告人は、本件建物の共有者としてこれを占有していることになるが、被上告人B1は、本件建物の共有者である上告人に対して本件建物の明渡しを求めることができる理由を何ら主張していないため、原審の判決は棄却すべきである。
※判決文抜粋

■親子関係
被上告人B2、同B3及び同B4がDとGの婚姻によってD・G夫婦の嫡出子となるかどうかについては、右婚姻当時のGの夫Dの本国法である韓国法が準拠法となり、被上告人B1及び同B5がDによる同被上告人らの認知によってD・G夫婦の嫡出子となるかどうかについては、Dが同被上告人らを認知した当時のDの本国法である日本法が準拠法となるというべきである。そうすると、被上告人B1及び同B5は、日本民法によりGの嫡出子であるとは認められないことになる。
※判決文抜粋


【ポイント】
原審では、韓国法の相続法令に則り、被上告人B1を相続人として認めたことから、本判決とズレが生じています。不動産賃貸料についても、日本国法と韓国法の相続分を、それぞれ同法に照らし合わせた相続分に基づき支払いを命じています。


【最後に】
相続においては、子が日本国籍を有していない場合、それはその子が有している国籍の法によって判断されます。この様なケースにおいては、相続専門の弁護士よりは国際法に強い弁護士を選任する必要があるでしょう。