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遺産分割後、遺言書が見つかり、自己の遺留分相当額を求めた裁判

【裁判】
事件番号:平成10(オ)994
事件名: 土地所有権移転登記請求事件
裁判年月日:平成12年5月30日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄自決


【訴訟経緯】
法定相続分に則り分配した遺産だったが、遺言書が発覚したために分配内容に変更が生じ、一部の相続人がその変更内容に対する遺留分減殺請求を求めた裁判。

■具体的背景
・Dは昭和57年4月6日に他界した。Dの財産は主に土地である。
・Dの法定相続人は、Dの妻である被上告人B1、長女であり被上告人であるB2、次女G、Dと先妻との間の長男Hの子である上告人A1、Hの非嫡出子であるI、Dの非嫡出子である上告人A2とA3。
・上告人A1が法定相続人になった理由は、先妻との間の子(長男)であるHが、推定相続人から排除されたため、相続権がその子に代襲されたことによる。
・昭和57年4月27日、本件相続に付き、Dの相続財産である土地を法定相続分に従って相続登記を行う(Dの妻、被上告人B1の持分→24/48、被上告人B2及びGの持分→6/48、上告人A1の持分→4/48、上告人A2及びA3の持分→3/48)
・その後、被上告人らは、Dが遺言書を作成していたことを知る。
・遺言書の内容は、昭和57年3月31日付け、公正証書遺言により、Eに対し、本件土地を遺贈し、遺言執行人にFを指名した内容
・昭和58年、被上告人らはEを相手方とし、管轄の地方裁判所に遺留分減殺請求訴訟を訴えた。
・昭和59年5月16日、訴訟上の和解が成立。(遺留分減殺を原因として、Eから被上告人らに対し、B1→持分4/5、B2→持分1/5を提供、他方、Eに対し、遺産である前記畑の被上告人らの各法定相続分を無償譲渡するとともに、和解金500万円を支払う旨)
・被上告人らは平成8年9月、上告人らに対し、Dの相続で取得した本件各土地につき、前述の和解内容に則り、被上告人B1の持分を4/5、同B2の持分を1/5とする所有権移転登記に更正登記手続をするよう求める訴訟を提起
・上告人らは、本件訴訟において、被上告人らは、遺留分の範囲を超え、上告人らの遺留分を侵害し上告人らに損害を与えることを知って本件各土地を取得したものであるから、被上告人らに対し遺留分減殺請求権を行使するなどと主張して争っている。


【判決】
被上告人らの主張を認めた原審を破棄自判。


【判決趣旨】
原審では「相続発生後10年経過しているので、上告人らに遺留分減殺請求権は行使できない」「被上告人らとEとの和解裁判は、EがDからの遺贈を登記する前に訴えを起こしており、そうなると、遺留分減殺により取得する持分については、相続登記がされていなければ、被相続人から直接相続を原因として移転登記を受けることとなる(昭和三〇年五月二三日民事甲第九七三号法務省民事局長通達参照)ので、被上告人らは、本件相続登記を被上告人B1の持分4/5、同B2の持分1/5の所有権移転登記に更正登記手続をするよう求めることができる」と判断したが、本判決においてこれを破棄。
※一部判決文抜粋


【理由】
・前記「和解」において、被上告人らが減殺請求により取得したと主張していた本件各土地に対する各持分の割合よりも大きく、Eに対し他の土地の法定相続分の無償譲渡と和解金500万円の支払を約したというのであるから、被上告人らがEから取得した本件各土地の各持分は、減殺請求によって取得したものとは到底認め難い

・本件相続登記がされた後に、遺言執行人を返さず、被上告人らがEから新たに取得した持分であるから、本件相続登記の更正登記によって右各持分の取得登記を実現することはできない。
※判決文抜粋


【ポイント】
Dは、遺言において遺言執行者としてFを指定しており、遺贈の履行をすべき任務を負うのは遺言執行者のみであるから、本来、Fにおいて本件相続登記の抹消をした上、Eに対する遺贈を原因とする登記手続をすべきものである。したがって、受遺者であるEとしては、本件相続登記が経由されている本件各土地の所有権移転登記を得るために、所有権に基づき本件相続登記の抹消を求めることは可能であるが、遺贈の履行としての所有権移転登記手続は遺言執行者に対して求めるべきであったのであり、Eから前記経緯で本件各土地について五分の四、五分の一の各持分を取得した被上告人らにおいても、右持分権に基づき相続登記の抹消登記を求めるとともに、Eに代位して、遺言執行者に対しその遺贈の履行を求めるというのが本則であろう。被上告人らが、遺言執行者を何ら関与させることなく、遺贈の履行義務を有しない相続人らのみを相手として、直接、本件相続登記の更正登記手続を求める本件請求は、右の本則から外れたものといわざるを得ない。
※判決文「補足解説」抜粋


【最後に】
本判決の判決理由は、遺言執行人がいるのに、遺言執行人を返さず、移転手続き・減殺請求の行使をしたことがポイントです。これは、遺言執行人がその任務を懈怠した場合でも、遺言執行人自らが家庭裁判所に申し出る(民法1019条、民法1010条)か、利害関係者が解任を家庭裁判所に申し出なければなりません(民法1019条)。この点も覚えておく必要があるでしょう。