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相続した株式の会計帳簿閲覧を求めた裁判

【裁判】
事件番号:  平成15(受)1104
事件名:  会計帳簿閲覧謄写,株主総会議事録等閲覧謄写,社員総会議事録等閲覧謄写請求事件
裁判年月日: 平成16年7月1日
法廷名: 最高裁判所第一小法廷
裁判種別: 判決
結果: 破棄差戻


【訴訟経緯】
相続人が被相続人から相続した非上場会社の株式について、発行会社に帳簿閲覧を求めたところ、開示を拒否されたため、開示を求めた裁判

■具体的背景
・Xは非上場会社5社の株式と有限会社1社の持分を有している。
・5社の非上場会社はいずれも譲渡制限株式であり、株式の譲渡に対し、取締役会での承認を必要とする法人である。
・Xは平成12年11月に他界し、上記株式と持分は上告人Yと法定相続人ら計4人よる準共有状態(遺産分割協議中)になっている。
・Yの法定相続分は3/4である。
・Yは平成13年2月、本件株式発行会社に対し、株主或いは社員の権利を行使できるものにYが選定された旨を伝えた。
・上告人であるYは、上記株式発行会社及び有限会社に対し、会計帳簿等の閲覧謄写を請求し、以下の理由を書面に記載し、送達した。
・以上の手続きにも関わらず、会計帳簿の閲覧請求が行えないため、Yは非上場会社5社と有限会社を相手方(被上告人)とし、会計帳簿の閲覧請求を求めた訴えを起こす

■上告人Yが被上告人に送達した閲覧請求4つの理由
①非上場会社の内4社は、Aグループの乙社に対し、総額494億円の無担保融資を行ったが、乙社は融資を受けた先である非上場会社の代表取締役であるDに対し、無担保で72億円を融資行い、結果、財務状況が悪化した可能性があり、回収不可能となる恐れが生じた。4社が行った貸付は違法、不当なものであり、上告人は適正な監査を行いたく、会計帳簿の閲覧謄写をする必要がある

②遺産分割及び相続税確保のため、株価を算定する必要があり、会計帳簿の閲覧謄写をする必要がある

③非上場会社の内2社が簿価207億円相当額の美術品を所有し、これをAグループのE財団法人に寄託している。上記被上告人2社がこのような多額の美術品を非営利目的で取得することは会社財産を著しく減少させ、会社ひいては株主、社員に回復できない損害を被らせるおそれが高いかため、本件美術品の内容・数量・購入された時期・金額・購入の相手方等を調査するため、会計帳簿の閲覧謄写をする必要がある

④非上場会社の内1社は、前述のD代表取締役に所有株式73万5000株を代金合計73万5000円の不当な安値で譲渡した。この株式の処理内容を調査するために会計帳簿の閲覧謄写をする必要がある


【判決】
上告人の請求を棄却した原審を破棄差戻。


【判決趣旨】
原審では、「上告人の主張(貸付は違法、または、美術品、株式の譲渡を違法)と言うが、そもそも、貸付にはXが関わっており、その相続人である上告人が、不当を主張するのは信義則上許されないものがある。また、本件美術品の取得及び本件株式譲渡が違法であるとの事実を基礎付ける事実が客観的に存在しているものとは認めることができないため、商法293条の7(有限会社においては有限会社法46条)に当たり、その主張は許されざるものがある。最後に株価の算定とは、株主の地位を離れた純粋な個人的な目的であり、以上のことから開示請求の拒絶理由として認めることができる。」と判断したが、この判断は是認することができない。


【理由】
商法及び有限会社法では、株主が会計帳簿の閲覧請求を行うための条件として、株式会社においては議決権の3/100を有していること、有限会社においては、総社員の議決権の1/10を有していることが記載されており、請求の理由は、具体的に記載されなければならないが、上記請求をするための要件として、その記載された請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在することについての立証を要すると解すべき法的根拠はなく、上告人の請求理由に具体性に欠ける要素はない。よって、原審の判断は棄却差戻すべきである。


【ポイント】
株式の譲渡につき定款で制限を設けている株式会社又は有限会社において、その有する株式又は持分を他に譲渡しようとする株主又は社員、上記の手続に適切に対処するため、上記株式等の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿等の閲覧謄写請求は、特段の事情が存しない限り、株主等の権利の確保又は行使に関して調査をするために行われたものであって、第1号所定の拒絶事由に該当しないものと解するのが相当である。
※判決文抜粋


【最後に】
事業承継において、よく以下の内容を目にすることがあります。
「議決権付株式は3%でも保有すると、訴訟権や会計帳簿閲覧権を持つため、株式を相続させる際は、親族とは言えども、その会社の経営を理解・より沿っている者に相続させるべきである。」
一方で、こういった情報を経営者の方にお話すると、理屈としては分かるが、いまいちピンと来ないと思われると思います。
経営をすると、一般には理解されにくいことでも、時には実行しなければならない時があります。
それをどう理解してもらうか?また、出資者の親族が株式を相続した時、どう対応するべきなのか?そのヒントとも言える事例ではないでしょうか?