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相続をきっかけに貸人が土地の賃借権無効を訴えた裁判

【裁判】
裁判年月日: 平成16年7月13日
法廷名: 最高裁判所第三小法廷
裁判種別: 決定
結果: 棄却


【訴訟経緯】
被相続人が賃借契約していた農地について、相続をきっかけに貸人が賃借権の無効を求めた裁判

■具体的経緯
・Xは昭和22年3月、自作農創設特別措置法16条により売り渡しを受け、昭和35年までにYとの間で本土地の賃貸借契約を締結した。
・Yは契約以降、賃貸料を支払い、本土地を耕作して占有した。
・Xは昭和58年10月に他界し、上告人Aが相続した
・Yは平成元年10月に他界し、その妻は平成5年に他界。遺産分割協議の結果、被上告人Bが本件土地の賃借権を相続した。
・本件は、上告人Aが本件土地の所有権に基づき、被上告人Bに受け渡しを求める裁判である。
・上告人Aは「本契約は、農地法3条1項所定の許可を受けないでしたものであるから、その効力を生じない」旨を主張しており、被上告人Bは、賃借権の取得時効を援用した。


【判決】
原審の判断を支持判決。論旨は不採用。


【判決趣旨】
時効による農地の賃借権の取得については、農地法3条の規定の適用はなく、同条1項所定の許可がない場合であっても,賃借権の時効取得が認められると解するのが相当である。
※判決文抜粋


【理由】
最高裁42年(オ)第954号の判決にもある通り、他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、民法163条の規定により、土地賃借権を時効により取得することができるものと解すべきであり、一方、農地法第3条は、同法の目的からみて望ましくない不耕作目的の農地の取得等の権利の移転又は設定を規制し、耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ろうとするものである。そうすると、耕作するなどして農地を継続的に占有している者につき、土地の賃借権の時効取得を認めるための上記の要件が満たされた場合において、その者の継続的な占有を保護すべきものとして賃借権の時効取得を認めることは、同法3条による上記規制の趣旨に反するものではないというべきである。
※判決文抜粋


【ポイント】
農地法第三条
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。


【最後に】
農地が土地を基盤に耕作する以上、その面積に限度があることから、国の繁栄のため、農業を保護しようと設立されたのが農地法(農地法第1条)です。その観点から、本件土地がどの様に利用されてきたのか?まで踏まえて判断された本判例は非常に興味深いものです。相続をきっかけに所有者(所有権)が移転し、それまでと大きく異なる反応や対応をされるケースは残念ながら、多々あります。それはその財産を受け継いだ方にはその方の想いがあるからです。現状、借人と貸人の関係が良好であったとしても、相続が発生するとどうなるか分からないということは覚えておいた方が良いかと思います。