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他の法定相続人分の現金引き出し金を銀行が返還を求めた裁判

【裁判】
裁判年月日: 平成17年7月11日
法廷名: 最高裁判所第二小法廷
裁判種別: 判決
結果: その他


【訴訟経緯】
被相続人の財産である現金を、相続人間の正式な合意無く下ろしたとして、銀行が相続人に対し、下ろした現金の返還を求めた裁判

■具体的経緯
・Aは上告人であるY銀行に対し、4436万9856円の預金を預けていた。
・Aは平成10年3月に他界した。
・Aの相続人は、Aの前夫との子であるBと、その後の夫の子である被上告人ら2人である(法定相続人は計3人)
・Bと被上告人の法定相続分はそれぞれ1/3づつ
・Aの相続財産は、本件預金他、北海道札幌市に所有する土地がある。
・被上告人の内の1人が、司法書士を通じ、Bに対して「本件預金を取得する意向があるか」確認すると、金銭はいらない旨と共に札幌市の土地の取得に強い意欲を示した。
・司法書士は、被上告人らに対し、Bは金銭はいらない旨の発言をし、本件土地の取得に強い関心を示していることから、被上告人らだけで本件預金の全額の払戻しを受けても問題は生じないと助言した。
・平成10年6月、被上告人らは、上告人である銀行の甲支店において、本件預金の全額の払戻しを受けた。
・Bは、本件預金債権の1/3を相続により取得したとして、上告人である銀行に対し、本件預金の1/3に当たる1478万9952円及び遅延損害金の支払を求める訴えを提起し争った。
・以上のことから、上告人である銀行は被上告人らに対し、被上告人らだけが丁の相続人であるかのように装い払戻しを受けたことにより、本件預金のうちBの法定相続分に相当する金員1478万9952円を不当に利得したと主張して、不当利得返還請求権に基づき、被上告人らに対し、上記の金員1478万9952円の各1/2である739万4976円及びこれに対する本件払戻しの日以降の年5分の割合による利息金の支払を求める訴えを平成15年4月に提起した。


【判決】
上告人(銀行)の主張を一部容認し、判決。


【判決趣旨】
原審では、「上告人である銀行はBに対し、1478万9952円及び遅延損害金を支払うことを争っているため、上告人の被上告人に対する不当利得返還請求は、Bに対する判決が確定し、その金額を弁済した後でなければ発生し得ないため、成立しえない」と判断しているが、その内容を否認。


【理由】
上告人である銀行は、本件払戻しをしたことにより、Bの法定相続分に相当する金員の損失を被ったことは明らかであり、被上告人らがBの法定相続分に相当する金員を利得したことも明らかである。本件預金のうちBの法定相続分に相当する金員について、被上告人らに対する不当利得返還請求権を取得したものというべきである。被上告人らは、上告人である銀行に対し、それぞれ739万4976円及びこれに対する平成15年4月5日から支払済みまで年5分の割合による利息金の支払義務を負うが、平成10年6月24日から平成15年4月4日までの利息金の支払義務は負わない。
※判決文抜粋


【ポイント】
・不当利得返還請求権の対象は、上告人が訴えを起こした時から。
・遺産分割協議を正式合意しない内の預貯金の引き出し(他の法定相続人分まで)は、単独分割債権のため、引き出しを行わない


【最後に】
銀行の現預貯金は可分債権といい、相続においては単独分割債権です。法定相続人が自身の証明を出来れば、法定相続分まで、単独で引き出しを行えるため、遺留分や遺産分割協議財産の対象外とされてきました。一方でトラブルも多く、本件も現預貯金の性質が利用された内容と言えます。この様な、銀行と相続人のトラブルは少なくなく、平成28年においては、殆どの銀行が遺産分割協議を完了していないと引き出せないように移行し始め、ついには平成28年12月の最高裁の判決を経て、現預貯金は遺産分割協議財産の対象となりました。銀行の預貯金も時代と共に性質が変わってきていますので、注意が必要と言えるでしょう。