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遺言書の内容が相反する場合の判決

【裁判】
裁判年月日: 平成17年7月22日
法廷名: 最高裁判所第二小法廷
裁判種別: 判決
結果: 破棄差戻


【訴訟経緯】
被相続人が作成した遺言書に「特定の財産を特定人物に相続させる」という記述と「遺言者は法的に定められたる相続人を以って相続を与える」という記述が存在し、相続人同士が自己の相続財産の取得範囲について取り分を求めた裁判。

■具体的経緯
・Aとその妻Bは、Aの兄であるCとその妻Dの間に出生した子(上告人)を、自己、嫡出子として出生届を出した(戸籍にもそのように記してある)
・Bは昭和39年に、Aは昭和62年に他界し、Aは生前、訴訟経緯にある遺言書を作成していた。
・Aの相続人は、兄弟であるCとE及びX1(被上告人)の3人であった。
・その後、Eが死亡し、その子であるX2~X7(被上告人)の6人がEの遺産を相続した。
・本件は、被上告人X1~X7が自己の法定相続分の割合による相続財産の取得を求め、上告人は本件相続は遺言書により特定財産を特定遺贈されたと財産の取得権利を求めた裁判である。
・遺言書には前述の通り、「特定財産を特定人物に相続させる旨」と「法定相続人を以って相続を与える」という記載がある。


【判決】
被上告人の主張を認めた原審の判決を破棄差戻。


【判決趣旨】
原審では、Aの相続は法定相続分通りの分割であると主張した「被上告人ら」の請求を認めたが、本判決においては「特定財産を特定人物に相続させる旨以外は上告人に全て相続させる旨である」と解釈するのが正しいとして、判決を破棄差戻。


【理由】
原審では、本件遺言書は「特定財産を特定人物に相続させる旨」を除く、その他財産を上告人に相続させるのであれば、上告人を名指しで指定すれば良いのにこれを行っておらず、そうなると「遺言者は法的に定められたる相続人を以って相続を与える」と言う文章は、単に法定相続人を指す内容と解釈するのが正しいと判断しているが、遺言を解釈するに当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきである。


【ポイント】
Aと上告人は、39年間、実親子の生活を送っており、上告人はAの唯一の相続人であったことを鑑みると、法律の専門家でなかったAとしては、同人の相続人は上告人のみであるとの認識で、Aの遺産のうち本件遺言書1項から3項までに記載(特定人物への特定財産の相続)のもの以外はすべて上告人に取得させるとの意図の下に本件遺言書を作成したものであり、同4項の「法的に定められたる相続人」は上告人を指し、「相続を与へる」は客観的には遺贈の趣旨と解する余地が十分にあるというべきである。


【最後に】
家族関係が複雑な場合(感情的な複雑さのみも含む)、その意志を相続において正しく表すには、正しい遺言書の書き方が必須になります。本件にように本来の遺言書の書き方を逸脱した場合、その判断は裁判所に委ねられることになりますので、遺言書を作成する場合は公正証書遺言か専門家(弁護士)に相談するのが望ましいと言えるでしょう。