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妹が亡くなったことをきっかけに弟を両親の実子でないと訴えた判決

【裁判】
裁判年月日: 平成18年7月7日
法廷名: 最高裁判所第二小法廷
裁判種別: 判決
結果: その他


【訴訟経緯】
被上告人が戸籍上被上告人の弟とされている上告人に対して、両親の実子でも養子でもないとして、親子関係が存在しないことを求めた裁判。

■具体的経緯
・被上告人(X)は大正12年、亡きAとBの間に長女として出生し、昭和5年にD夫婦と養子縁組し、D夫婦の子として育てられた。その後、A夫婦には二女であるCが生まれる。
・上告人(Y)は昭和16年、F夫婦の子として出生し、F夫婦はA夫婦に上告人をA夫婦の嫡出子として届けるよう要請し、A夫婦は上告人Yを長男として出生届けを出した。
・上告人YはA夫婦と二女Cと共に生活し、昭和51年まで同居していた。Aが昭和49年に他界したため、上告人の学費をCが負担するなどの経緯があった。
・上告人はF夫婦の喜寿を祝う集まりに呼ばれ、平成5年に自分がF夫婦から生まれた子であることを認識するに至ったが、その後も、その後もA夫婦及び被上告人Xと二女のCと家族としての関係を維持し、同人らも上告人がA夫婦の子であることを否定しなかった。
・Bは平成8年に他界し、遺言にて全財産をCに相続させる旨を記載した。これには、Bの相続財産の殆どが居住用不動産であり、Bと同居していたCが、Bの死後もその家に住めるよう配慮した為であった。
・Cはその後、1人で生活を平成14年に自宅で死亡しているのを上告人に発見される。
・被上告人は、上告人がCの安否の確認をしなかったためにCの死亡の発見が遅れたと思い憤りを感じていたところ、Cの法要の参列者を上告人が被上告人に相談なく決めようとしたことなどに反発し、上告人とA夫婦との間の実親子関係を否定するに至った。
・被上告人はCの相続について、上告人と話し合う中で、上告人はA夫婦と親子関係になくCの相続人には成りえない等の発言をしている。


【判決】
被上告人の請求をいずれも容認すべきとした原審の判決を一部否認。


【判決趣旨】
身分関係を記す戸籍にはその記載が正確性であることを確保すべきであり、個々の事情を重視するのではないと判断し、本訴訟が権利の乱用に当たらないと判決した原審だが、この判断のうち、実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした部分は、認められないと判決し、一部原審へ差し戻した。


【理由】
・被上告人はCの相続が問題になるまでは、上告人に対してA夫婦の実子であることを否定したことはない。
・上告人は昭和16年から平成8年のBの死亡まで約55年に渡り、AないしBと親子同然の生活を送っている。
・もし、判決において上告人が実子でないと判断されると、上告人が受ける精神的苦痛は軽視しえないものであり、Cの遺産がBから引き継いだ土地建物のみのことを考えると、相続において上告人が受ける経済的不利益も軽視できない
・A夫婦は上告人が実の子でないと述べたことはなく、上告人との間に嫡出子との関係を望んでいたと推認される上、上告人がAと養子縁組を行うことが現状不可能である
・被上告人は、Cの死亡の発見が遅れたことについて憤りを感じたこと、Cの法要の参列者が被上告人に相談なく決めようとされたことなどから、上告人とA夫婦との親子関係を否定するに至ったという経緯

以上から、実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断は、認められない。


【ポイント】
原審では、画一的に親子関係を判断しようとしたのに対し、本判決は全ての状況を加味した上で判決をした点。