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特別受益権の行使につき、銀行に被相続人の口座開示を請求した判決

【裁判】
裁判年月日: 平成19年12月11日
法廷名: 最高裁判所第三小法廷
裁判種別: 決定
結果: 破棄自判


【訴訟経緯】
被相続人であるAが亡くなり相続が発生。Aの相続人である拮抗人らが、相続人であるBに対し、遺留分減殺請求権を行使し、Aの遺産である不動産の持分の移転手続きと生前に資金移動の形跡があった金額の特別受益相当金額の支払いを求める裁判。裁判の焦点は、BがAに生前に受けた預貯金の払い戻しは、Aのための費用に充てられたのか、Bが取得したのかが争われており、その確認のため、Aの預貯金の預け先であった銀行にAの取引明細の開示を求めている。
銀行としては、本件明細表の記載内容が民訴法220条4号ハ、197条1項3号に規定する「職業の秘密」に該当するため、開示の義務はないと主張している。


【判決】
原審を破棄自決。取引明細を開示するよう判決。


【判決趣旨】
原原審では、職業の秘密に該当せず、開示を拒むことはできないとし、拮抗人らの主張を支持した。しかし、原審では原々決定を取り消し、本件申立てを却下した。その理由として、銀行は取引先から得た情報を守ることで、顧客から信頼を得て、その業務を完遂することができるのであって、これを取引の当事者以外に開示することは信頼を無くし、取引の継続や拒否に繋がるためであると述べている。しかし、本判決においてこれを更に破棄している。


【理由】
金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について、当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には、当該顧客は上記顧客情報につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず、金融機関は訴訟手続において上記顧客情報を開示しても守秘義務には違反しないというべきである。
これについてBとの関係において守秘義務を負っているにすぎない。そして、本件明細表は、本案の訴訟当事者であるBがこれを所持しているとすれば、民訴法220条4号所定の事由のいずれにも該当せず、提出義務の認められる文書であるから、Bは本件明細表に記載された取引履歴について相手方の守秘義務によって保護されるべき正当な利益を有さず、相手方が本案訴訟において本件明細表を提出しても、守秘義務に違反するものではないというべきである。
※判決文抜粋


【ポイント】
金融機関は開示を求められた顧客情報が、その民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合は、守秘義務に違反しない。


【最後に】
被相続人の預金口座の推移を知りたくても、その情報はあくまで被相続人の情報です。遺産分割において争いを避けたいからこそ、取引履歴を閲覧したいという思いは多々あるとは思いますが、その請求にも留意が必要でしょう。