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否認される持ち株会社設立とそうでない持ち株会社設立(相続税対策)

2017年5月頃より、各メディアにて持ち株会社を活用した相続税対策が相次いで否認されている、という内容が報道されていていますが、具体的に否認されている持ち株会社の話ばかりで、そもそも、何故、税法上正しい解釈の下、実行している持ち株会社による相続税対策が否認されているのか?

どうすれば、否認されない持ち株会社設立による相続税対策が行えるのか?

この点は殆ど触れられていません。

今回は、この点について詳しく掘り下げて解説したいと思います。

■何故、税法上正しいルールで行った持ち株会社対策が否認されるのか?
まず、それまで問題なかった持ち株会社を活用した相続税対策が否認されているのには、相続税法64条の兼ね合いがあります。


【相続税法64条】(同族会社等の行為又は計算の否認等)
同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる。

この法令を要約すると、「税法上、その評価が正しくとも、不当に株価が下がる内容は税務署長の判断の下、否認することができる」ということです。

課税は全ての日本国籍を持つ者に平等に課したい、というのが国の考えです。

従って、結果論として、同じ課税財産を持つのに、AさんとBさんで大きく課税価格が変わるのは不公平になります。

従って、その様なことが起こらないよう、この法令では税法上評価が正しくとも、税務署長の判断の下、否認できるようにしているのです。

「税法上、評価額が正しくとも、過大に節税となる対策は税務署に否認される恐れがある」

この点を覚えておきましょう。

尚、株価の評価に関わる内容であれば、持ち株会社設立でなくとも、今後余りにもその対策案が目立つようであれば、封鎖されていく可能性は極めて高いといえます。



■否認されない持ち株会社を活用した相続税対策とは?
では、否認されない「持ち株会社を活用した相続税対策」がないかというと、そうではありません。

否認されている持ち株会社設立には「ある共通点」があるので、その点を避ければ、対応は可能かと思います。


【否認されている持ち株会社設立の共通事項】
否認されている持ち株会社設立は、「株価の評価を下げてから、後継者に渡っている」という共通事項があり、また、この点を税務署から指摘されています。

簡単に仕組みを解説すると
①現経営者が新たに法人(B)を設立
②Bの法人に現経営者が経営している法人(A)の株式を出資or譲渡
③Bがホールディングスカンパニーとなり、持ち株会社になる
④Bの売り上げがAの配当のみとなり、結果、株価の評価を行った時、AとBに大きな開きが出る


税務署が指摘しているのは、Aの経営権を実質Bが所有しているにも関わらず、AとBの株価には評価額に大きな開きがあり、その点が問題だと言っているのです。

従って、後継者に株式を譲渡する時(相続であれ生前であれ)に、この点を避ければ(評価を下げて譲渡・相続しなければ)良い訳です。

つまり、株式を相続させたい後継者が自ら新たに法人を設立し、その法人に現経営者の株式を時価で売買すれば、問題ないということになります。

評価を下げて後継者に譲渡するのではなく、評価を下げず「時価」で後継者が設立した法人に売却すれば、それは資本取引であり、評価を下げて渡している訳ではないので、税務署から指摘された時でも、言い分が立ちます。

しかも、Bが設立し、株式を譲渡された法人に現経営者が役員として株を所有しておけば、Bが設立した法人に株式を譲渡しているにも関わらず、現経営者は譲渡株式を所有していた法人(本来承継させたかった法人)の経営権もコントールできます。

但し、この方法は、評価を時価で売買しているので、節税にはなりません。
※評価を下げて実行すると、表題の税務調査で指摘されますので本末転倒です。

では、何も資金面でメリットがないかというとそうではありません。

既存の持ち株会社設立及び上記対策では、株式を譲渡or出資する時に、法人が買い取り資金を準備(出資の場合は高額な譲渡税の支払い)があり、大抵、金融機関から資金を借りて実行しますが、既存の方法であれば、その後持ち株会社の株式の評価が必然と下がり、税務署に指摘される可能性が極めて高い内容となりますが、上記対策では、時価で資本取引を行っているため、評価額で指摘される可能性は低くなります。

この点が大きな違いです。

評価を下げて、税務署に指摘される可能性が高い方法を選択するか、時価で評価額を下げず、資本取引を行うか?

先を考えた時、どちらがメリットがあるのか?
というお話になります。

今回は持ち株会社設立によるお話が中心となりましたが、いずれにせよ、実行される際は税理士及び、状況により税務署に確認を行いながら進めていくべき内容であることは理解しておく必要があるでしょう。