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平成29年度の物納の税制改正案と物納の相続の要点

物納には優先順位が存在しますが、平成29年度の税制改正案で、ひっそりと、この「物納」の優先順位を差し替える案が提出され、4月1日付けで改正されました。

そもそも、「物納」とは納税資金の不足分を現金ではなく、物によって納めることを言います。

相続においては、超富裕層、所謂「地主」の方が、その圧倒的な相続税不足を解消するために使用されるケースが殆どです。

では、この物納の優先順位が変わることで、物納にどの様な変化が現れるのか?
そこから見える物納の知られざる仕組みについて解説していきます。


平成29年3月31日までの物納の優先順位(改正前)
第1順位上位 ①国債、地方債、不動産、船舶
第1順位下位 ②不動産のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位上位 ③社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
第2順位下位 ④株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位   ⑤動産


平成29年4月1日以降の優先順位(改正後)
第1順位上位 ① 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
第1順位下位 ②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位上位 ③ 非上場株式等
第2順位下位 ④ 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位   ⑤ 動産


※1物納に充てることのできる順位は①→⑤です。
※2相続開始前から所有していた特定登録美術品は、上記の表の順位によることなく物納に充てることができます。
※3特定登録美術品とは、「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」に定める登録美術品のうち、その相続開始時において、すでに同法による登録を受けているものをいいます。

※国税庁「物納の手引き」より


■変更点
変更点としては、上場株式がそれまで第2順位だったものが、第1順位に繰り上がったことです。
また、それまで特殊条件付だった「非上場会社の株式」が正式に第2順位に明記されたことでしょうか。



■変更点からみえる物納の現状と基本概論
そもそも、物納は相続人毎において「相続税の納付が困難か」どうかで適用されるものです。 例えば、相続人が二人おり、1人(A)が現預貯金全てを相続、もう1人(B)が不動産全てを相続した場合に、Bの相続税の納付が困難だから、物で納付することで認めましょう、というものです。

従って、同じ相続財産・相続人の数でも、分け方によって物納できるかどうか判断が異なってくるものだということを憶えておく必要があります。

もっと言えば、相続財産の内、劣後不動産が多数を占めていても、劣後不動産を特定の相続人に集中させることで、劣後不動産のみで相続税を納付することが可能です。
(特定の相続人が喜ぶかどうかは、さておき、ですが。)



■何故、上場株式が第一優先順位になったか
この理由を理解するには、物納の仕組みを理解する必要があります。
そもそも論として、「何故、不動産より換金性の高い上場株式が、元々不動産より優先順位が下だったのか?」これを理解する必要があります。

税金の納付は相続に限らず、全て現金による納付が原則です。そして、現金の価値は、不動のものです。

ここに、価値が変動するものが入ったら、どうなるでしょうか?

不平等にならないでしょうか?

だから、物納であっても、納付額同額のもので価格に変化がないもので収めて頂く、これが根本の考えです。

株式は場合によっては、不動産より換金しやすく、納付時より納付後の方が価格が上がるケースもあります。

一方で、納付した瞬間に価格が下落し、場合よっては紙くずになる恐れもあります。

しかし、不動産は価格の変動は多少あれど、下落は殆どありません。

だから、安定性(安全性・平等性)の面から、不動産の方が納付順位が上なのです。

しかし、この仕組みが理解できると、換金性の高い財産を相続したのに、不動産(場合によっては一般でも買取困難な劣後不動産)を相続税の代わりに納め、現金を相続させることが可能にならないでしょうか?

物納は差し押さえと異なり、納税することが可能、かつ、納税する意思がある人が利用する制度です。従って、国も交渉はしてきますが、ルールに則った手順を蔑ろにするわけにも行きません。

こういったケースが段々と目立つようになったため、株式の優先順位を変えたのではないかと、推察することが出来ます。
(国は、改正の趣旨を明記していませんから、あくまで一事務所の個人的見解にはなります。)



■物納された財産から見えてくる「ある方法」
また、物納された財産はどのように現金化されるか?この点も着目する必要があります。

原則、物納された財産は競売にかけられます。

よって、不動産や株式も優先順位が低くなる「劣後不動産」という概念が出てくるのです。

「劣後不動産」は財産毎に細かく定義されていますが、大まかに言うとこういうことです。

・売却する際、売却が困難になるもの
・買い手が付きにくい条件が付されているもの

これが、「劣後不動産」という条件だと思ってもらえれば、非常に分かりやすいのではないでしょうか?

例えば、土地であれば、地上権は第三者が所有していたり、建物が建っており、その建物が土地の所有者ではない第三者が所有している場合など。

こういうものは、優先順位を下げましょう、ということです。(場合によっては物納できない、というケースもあります。)

従って、現金と同等の換金性の資産でありつつも、本人以外に権利を移転できない財産であれば、物納であっても、換金性の高い資産を相続させることが可能です。

こちらは当社へご相談頂いた方にのみお話させて頂いています。



■自社株を物納の問題点
自社株を物納できるようになり、自社株の納税資金不足に有効活用できそうに思えますが、前述の通り、物納財産は原則競売にかけられます。

つまり、場合によっては、納税資金は確保できたものの、一部(或いは大多数)の株の議決権が見ず知らずの第三者に渡ってしまう危険性を秘めています。

中小企業であれば、同族会社が殆どです。そこに全く関係ない第三者が経営に関与してくることは、そちらの方が余程重要な問題ではないでしょうか?

また、譲渡制限株式の場合、株主総会で承認を得なければ第三者へ譲渡できない仕組みとなっているため、物納は不可となっていますが、中小企業の殆どが譲渡制限株式のため、実質、自社株の物納は不可能ということになります。