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2023(令和5年度)相続税改正

2023年度(令和5年度)の税改正である「2023年度税改正大綱」が発表されたことを受け、相続税に関わる部分を抜粋して解説します。
2023年の相続税改正の要点は「相続時精算課税の改正」「贈与の相続税への加算期間の変更」「教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与の延長」の3点となります。
原文については、こちらを参照ください。


■改正内容1.相続時精算課税制度の改正

以下、本文からの抜粋です。
相続時精算課税制度について、次の見直しを行う。
①相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、特定贈与者の死亡に係る相続の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とする。
(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用する。
②相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した一定の土地又は建物が当該贈与の日から当該特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害によって一定の被害を受けた場合には、当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる当該土地又は建物の価額は、当該贈与の時における価額から当該価額のうち当該災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額とする。
(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用する。


【解説】
現行の相続時精算課税制度では、所謂税控除がありませんでしたが、令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した場合は、控除額として110万円が税控除できるようになりました。相続時精算課税制度とは、相続までの税の先送り制度とも言われ、2500万円までの贈与に関わる税金を相続時に支払う(精算する)という制度です。2500万円を超えた贈与については、贈与時に2500万を超えた額に対し、一律20%の贈与税を支払い、支払った贈与税は相続時に課せられる相続税から控除される仕組みです。相続時に課せられる相続税より贈与時に支払った贈与税の方が多い場合は、還付申請を行うことにより差額分が還付される仕組みとなっています。
また、令和6年1月1日以降に、相続時精算課税制度を適用し、土地・建物を贈与した場合も改正が入っており、贈与の日から贈与者死亡までの間(相続税の申告期限までの間)に、贈与した土地・建物が災害によって一定の被害を受けた場合、その被害を受けた土地・建物も相続税から控除できるようになっています。
「税改正の基本的な考え方」にあるように、税改正を行い、若い世代への資産移転を活発化することが本制度のポイントといえるでしょう。


■改正内容2.贈与の相続税への加算期間の変更
以下本文から抜粋です。
(2)相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間等について、 次の見直しを行う。
① 相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続の開始前7年以内(現行:3年以内)に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、当該贈与により取得した財産の価額(当該財産のうち当 該相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、 当該財産の価額の合計額から 100 万円を控除した残額)を相続税の課税価格 に加算することとする。
(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用する。


【解説】
現行、相続発生時、相続開始の3年以内に贈与した財産は相続財産に含めることとなっていました。この際、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになり、所謂租税回避のための暦年贈与非課税枠(110万円以下の贈与税非課税分)も含める事となっていました。
これを3年以内から7年以内に変更した、というのが今回の改正です。但し、現行と異なり改正後(令和6年1月1日以後)は100万円の控除額が追加され、生前に贈与した行為に対する配慮がなされています。
尚、国税庁のホームページにも記載がある通り、以下の贈与は加算の対象外(相続財産への加算対象外)となります。※以下国税庁のホームページより抜粋
(1)贈与税の配偶者控除の特例の適用を受けているまたは受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
(2)直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
(3)直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
(上記の金額のうち、贈与者死亡時の管理残額については、相続等により取得したものとみなして、相続税の課税価格に加算される場合があります。)
(4)直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額


■改正内容3.教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
以下本文から抜粋です。
適用期限が令和5年12月31日まで2年延長されました
(1)直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、次の措置を講じた上、その適用期限を3年延長する
①信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合において、当該贈与者の死亡に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても、その死亡の日における非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額を、当該受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとみなす。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税について適用する
②受贈者が30歳に達した場合等において、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率を適用することとする。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用する。
③本措置の対象となる教育資金の範囲に、都道府県知事等から国家戦略特別区域内に所在する場合の外国の保育士資格を有する者の人員配置基準等の一定の基準を満たす旨の証明書の交付を受けた認可外保育施設に支払われる保育料等を加える。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に支払われる教育資金について適用する。
④その他所要の措置を講ずる。
(2直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、受贈者が50歳に達した場合等において、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率を適用することとした上、その適用期限を2年延長する。
(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用する。


【解説】
現行の「教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」とは、国税庁ホームページに記載のある通り、以下の内容を指します。
「平成27年4月1日から令和5年3月31日までの間に、18歳以上50歳未満の子供が結婚・子育てに関わる資金に充てるために、直系尊属(父母・祖父母)から信託契約・書面による贈与により、資金を贈与された場合に信託契約においてはその受益権、贈与については1000万円までは贈与税が非課税になる」というものです。
但し、この制度の取り扱い金融機関を経由して、結婚・子育て資金非課税申告書を提出することが条件となります。
この制度を3年延長するというのが、今回の改正の1つ目となります。2つ目は、文面通り、令和5年4月1日以後本制度を利用した場合、信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合において、当該贈与者の死亡に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても、その死亡の日における非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額を、当該受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとされます。
大きな改革はこの2点となります。


【まとめ】
今回の制度改革は「令和5年度税制改正の基本的考え方等」「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築 」にある通り、早期の資産移転を目的とした改革が顕著に出ているように感じます。また、「わが国の贈与税は、相続税の累進負担の回避を防止する観点から、相続税よりも高い税率構造となっている。実際、相続税がかからない者や、相続税がか かる者であってもその多くの者にとっては、贈与税の税率の方が高いため、生前にまとまった財産を贈与しにくい。」とあるように、相続税の負担を回避を防止するため、贈与税が相続税よりも高い税率構造になっていると名言されている点も印象的でしょう。この考えを元に今後どのように税改正がなされていくのか、注視する必要があると言えるのではないでしょうか。