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実子でないこと隠し続けたことにより遺産分割は無効だとされた判決

【裁判】
裁判年月日: 平成20年3月18日
法廷名: 最高裁判所第三小法廷
裁判種別: 判決
結果: 破棄差戻


【訴訟経緯】
本件は韓国の国籍を有する被上告人らが、韓国の戸籍上、被上告人らの弟とされている上告人に対し、上告人と父親との間の実親子関係が存在しないことの確認を求める事案。

■具体的経緯
・亡きAとBは昭和19年に結婚し、両名とも韓国籍を有する。
・被上告人X1とX2はいずれもAとBの間に長女、次女として生まれる。
・AとBは長男を欲しがっていたが、長男は生後3年で亡くなる。
・男の子を欲しがっていたA、B夫妻は福祉施設にいた上告人を引き取り、神戸兵庫区長に対し、二男として出生届けを出す。
・AB夫妻は上告人である二男を実子のように育て、上告人に対しても死ぬまで実子ではないことを告げなかった。
・Aが平成5に亡くなり、Bと上告人、被上告人らの間で、Aの遺産の殆どを上告人が取得する遺産分割協議が纏まった。
・平成15になり、突然、被上告人らがAと上告人の間には実子関係が存在せず、遺産分割協議は無効であり、Aの遺産を返還するよう訴えを起こした。


【判決】
判決、被上告人らの主張を支持した原審を破棄差戻


【判決趣旨】
本件はAの本国である韓国法が準拠法となる。原審では、韓国法844条により「Bは上告人を婚姻中に懐胎したものではなく、嫡出推定は働かない」ため、被上告人らが提起した上告人とAとの間の実親子関係不存在確認請求訴訟は適法な訴えであると判断したが、しかしながら,原審の上記判断のうち,被上告人らが実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした部分は,是認することができないと判断した。


【理由】
韓国法では、例外も認めており、嫡出否認の訴えに出訴期間を定め(847条1項)、嫡出承認後には上記訴えを提起することを許さない(852条)など、一定条件・期間後には、戸籍記載の親子関係を真実の親子関係として合致させるなど、制限を設けていることが明らかである。
しかも、両親ABともに実子として接してきたばかりか、被上告人らも実の兄弟同様に接してきたことを鑑みれば、上告人に軽視し得ない精神的苦痛,経済的不利益を強いることになるばかりか,関係者間に形成された社会的秩序が一挙に破壊されることにもなりかねない。また、甲が既に死亡しているときには、乙は甲と改めて養子縁組の届出をする手続(韓国民法866条)をしてその実子の身分を取得することもできない。また被上告人らが経済的理由を基に本訴えを起こしていると推察できるためである。


【ポイント】
・上告人は、A夫婦に引き取られてからAが死亡した平成5年まで30年以上にわたりAとの間に実の親子と同様の生活の実体があり、かつ、被上告人らは、平成15年まで上告人がA夫婦の実子であることを否定したことはなく、平成5年には上告人との間でAの遺産分割協議を成立させた。

・判決をもって上告人とAとの間の実親子関係の不存在が確定されるならば、上告人が受ける精神的苦痛は軽視し得ないものであることが予想される。また、Aの相続が問題となっていることからすれば、上告人が受ける経済的不利益も軽視し得ないものである可能性が高い。

・Aは死亡するまで上告人が実子ではない旨を述べたことはなく、上告人との間で実親子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに、Aが死亡した現時点においては、上告人がAとの間で養子縁組をすることは不可能である。

・被上告人らが前記のとおり上告人が取得したAの遺産の返還を求める訴訟を提起していることからすれば、被上告人らが上告人とAの実親子関係を否定するに至った動機目的は、経済的なものであることがうかがわれる。

・上告人とAとの間の実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合、上告人との間の実親子関係の不存在が確定しているBが不利益を受ける可能性は否定できないが、同人はAと共に上告人を福祉施設から引き取り、実子として届出をし、上告人との間で長期間にわたり実の親子と同様の生活をしてきたのであるから、同人の不利益を重視することはできない。

以上によれば,上告人とAとの間で長期間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと、Aが死亡しており上告人がAとの間で養子縁組をすることがもはや不可能であることを重視せず、また、上告人が受ける精神的苦痛、経済的不利益、被上告人らが上告人とAとの間の実親子関係を否定するに至った動機、目的等を十分検討することなく、被上告人らにおいて上記実親子関係の存在しないことの確認を求めることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
※判決文抜粋